まんが投稿

河原和音先生に聞く!実践ネーム塾
 第6回 ストーリー その②

思惑が空回りするハッピーな「転」とは?

私は、いつも起承転結の転でつまるんです。ここで一波乱起きてハッピーエンドになるんだな、とは思うんですけど「一波乱」てなんだ…と。

思うよね。「何かあってくっつく」の「何か」ってなんだろうって思うよね。

予定調和のような一波乱を起こしてしまって、「これではないな」といつも思うんです。不自然に意地悪な人を出したり、無理にケンカをさせたりして転を作るのではなくて……河原先生がお描きになるような、人の善意がから回ってすれ違うようなハッピーな転にしたいんです。お互いを思い合った結果のやさしいすれ違い、というか。

私、そういうものが……お互いの思惑がからまわりして、みたいなものがどうしても好きみたいで(笑)。自分でも描いてしまいがちですね。シェイクスピアの『空騒ぎ』みたいな……大きく出たなと思われると思うんですけど(笑)。

――『空騒ぎ』は、2組のカップルが、周囲がよかれと思ってしたことや、策略などに振り回されつつ、最後はめでたく結ばれるというお話ですね。

はい。シェイクスピアは、そういうふうに思惑がずれていくようなお話が多いんですよ。『ロミオとジュリエット』だとちょっと勘違いが大きすぎると思うんですが。あと、アンジャッシュのコントも好きなんです。すっごくまじめにやっているのに、どんどんずれていって……でもいつのまにかつじつまあっちゃってるよ!みたいな。私自身が思い込みが激しくて、勘違いをしたりすることがよくあるので、描きやすいんだと思います。そこは作家さんによって個性が出るところというか、得意不得意があると思うので、自分がどういうものが好きかをつかんで、活かしてください。

<編集長>

『俺物語!!』の1話めは、まさに2人の思惑がずれていって……という話ですよね。

あれもそうですね。

――そういうものを描く時に、大事なことというのはありますか?

キャラクターに、読者さんが納得してくれたり一緒に思いこんでくれたりするような理由とかバックグラウンドみたいなものがちゃんとあるのが大事というか。「この人ってこういう人なんだよな」という説得力が必要だと思います。それがあれば、わけがわからないけど、なんかハッピーになる!みたいなことになると思う。思惑がずれる、という話だけじゃなくて、どんな時にもたぶん、物語に引き込む説得力は大切ですよね。あ、説得と言っても、「キャラに説得させる」ということではないですよ(笑)。

「転」=一番いいシーン

私は、転を大きくしなきゃっていうプレッシャーみたいなのものを勝手に感じてしまっていて……。最後をきれいに終わりたいから、無駄に転を大きくしがちなところがあるのかなと思うのですが。

うーん……転が大きいことは、悪いわけではないと思うよ。でも気になるのなら……さっきも言ったように、まずは自分がどんな雰囲気の転を求めているのかを、少しずつはっきりさせていくことが大事なのかなと思う。物語に必要な何か……「これだ!」というものを見つけるまで直感を信じてあきらめないでほしいなと。あ、でも直感だけでもだめなのかな……「直感」としてなんとなく感じて、論理的に考えたり整理したり「思考」して、もう一度おもしろいかどうか「直感」で判断する。それを繰り返していくうちに、見つけられるのかもしれないなと思います。

なるほど……!

あ、あと転を一番いいシーンだと考えるといいんじゃないかな。それまでキャラが積み重ねてきたものを壊すことが転ではないんですよね。キャラがやってきたことの集大成を見せるところなのかなと思うんですよ。だからそこで話がひっくり返ることもあるだろうし、ひっくり返らずに積み重なることもあるだろうし。今までしてきたことが全部集まってこうなっちゃう、っていう感じ。こうなるべき布石みたいなものが必要ということにもなるんですけど。野球でいうと、「あの時の走塁がここで功を奏してくるとはね!」みたいな(笑)。野球まんがで突然「相手選手が食中毒になる」みたいなことを起こして、それで勝ったとしても、何か違うなあ、と思ってしまいますよね。

<編集長>

以前、それをグラスに例えた作家さんがいました。「転」はグラスからあふれた最後の一滴だと。みんな、その一滴に注目してしまうけれど、本当はそれまでグラスの中にたまっていたもの……そこまで積み重ねてきたもののほうが大事なのではないか、ということですよね。

そうだと思います。ただ、マンガによっては「突然食中毒を起こす」ことがベストな時もあるかもしれなくて。自分の物語とキャラクターと、「これでどうかな?」と相談して、自分で「これだ!」と思えるものを探してほしいです。

登場人物が劇的に変わったところで終わるのもあり

以前別のところで、「転」のまま終わってもいい、という話を伺ったことがあるのですが……。『逢沢りく』(ほしよりこ)というまんがでは、嘘泣きをするのが得意な女の子がピュアな心に触れて、最後は嘘泣きではなく、自分の本当の感情で泣いて終わるんです。主人公の本当の欲求が満たされた瞬間で終わっているというか、転で終わっているように思うのですが……それって青年まんがっぽいのでしょうか。少女まんがとしても、そういう終わり方はありだと思われますか

ありだと思います。「あ、主人公は変わったんだな」で終わっても印象的になるかなと。

確かに、印象的ですね。

ライブ感が大切だと思う。実は私は起承転結をあまり意識はしていなくて……気持ちの流れがあるだけなので。昔は、一度描き終わった後に、モノローグだけつなげて読んでみて、ちゃんと気持ちが流れているか、動いているか、成長しているか、確かめる作業をしていた時期もありましたね……とはいえ、やっぱり話の中で、「山場」というのはあると思っています。主人公の考え方や、主人公と男の子の関係性が劇的に変わるところ、っていうのはありますよね。主人公が変わらなくても、相手の気持ちを劇的に変えることができたのなら、その後の主人公のリアクションまで描かなくても、その山場のまま終わってもいいんじゃないかなと思います。終わり方は、人それぞれでいいんじゃないのかな。ジャン!と劇的に終わっても、もちろんいいし。

はい!

私自身はきれいに終わりたいタイプではあるんですが……きれいにまとめようとし過ぎないほうがいいかなとは思っています。最後に、全然関係ない妙なまとめのモノローグを入れる、とかは自分でやらないように気をつけています(笑)。

確かに、ポエムみたいなモノローグ、入れがちです……!

(笑)。音楽もいろいろな終わり方がありますよね。まんがもそれと一緒だと思います。前に、「クッキー」のまんがスクールで持田あき先生が、起承転結にガチガチにこだわる必要はない、とおっしゃっていて。それを音楽に例えていらしたんですよ。Aメロ→Bメロ→サビ→Cメロというのがよくあるパターンだけど、いきなりサビから始まって次にAメロに行ってもいいし、サビ=大事なことは繰り返してもOK、と。すごくわかりやすいなと思いました。

わかりやすい!

おもしろければ、いいんですよね。自分の「これがおもしろいんじゃないか? これがいいんじゃないか?」という感覚を信じてチャレンジしてみてほしいです。おもしろくなかったらおもしろくない、と誰かが言ってくれるので大丈夫(笑)。チャレンジは、楽しいですよ。