まんが投稿

河原和音先生に聞く!実践ネーム塾
 第1回 インプットの秘訣

「面白いまんがってどうやったら描けるの?」そんなお悩みにお答えする新コーナーが別マ4月号からスタート!
毎月3人の新人まんが家が、河原先生流のまんがの描き方の秘密に迫ります!
本誌では相談内容をもとにまんが形式でわかりやすくネームのコツを紹介中ですが、こちらではインタビュー形式で、河原先生のお話がたっぷり読めます!

河原和音先生

別マまんがスクールでデビュー。代表作に『先生!』、『高校デビュー』、『青空エール』、『俺物語!!』(ネーム原作)など。
いずれも人気を集め実写映画化された。現在大ヒット連載中の『素敵な彼氏』で小学館漫画賞少女向け部門を受賞。

お話を聞くのはこの3人!

石田アズ先生

体育会系新人まんが家。

にしひろあき先生

慎重派新人まんが家。

松尾夏生先生

夢見がち新人まんが家。

先生、今日はよろしくお願いします!

こちらこそ、よろしくお願いします! でも、あの……まんがの描き方って、本当に人それぞれなんですよね。私も自分なりに「こうかな?」と考えることはありますが、考えていくうちに「そうとばかりも言えないよね」とか「結局おもしろければなんでもいいんだよなあ」とか思ったりして……。

――確かに作家さんによって違っていますよね。

それに、描き方のことが「こうだ!」とわかった時というのは、その描き方を終わらせる時だと思うんですよ。わかったら、次の新しい描き方に進まなければいけない。時代もどんどん変わっているし、私もずっと模索中です。まんがを読むのが大好きなので、普段からたくさん読んでいるんですけど、おもしろいな、すごいなと思うまんがにたくさん出会います。そのたびに「私もこういうおもしろいものが描きたいなあ」と思うんですよ。デビューした時からずっとそうでした。だからみなさんが、どうしたらおもしろいまんがが描けるのか、よりよい方法を探す気持ちはすごくよくわかります。おもしろいまんがの描き方を、一緒に探していきましょう!

はい!!

たくさん読んで「自分が何をおもしろいと思うのか」を知ろう

さきほど、たくさんまんがを読まれるとおっしゃっていましたが、どんなものを読まれますか?

少女まんがも少年まんがも青年まんがもなんでも読みます。「こういうものは読まない」というのはないですね。

<河原先生担当編集者>

河原先生は、お送りしている別マは「まんがスクール」のページまで読んでいらっしゃるんですよね。

はい。「この中で誰がデビューするのかな?」とか思いながら楽しく読んでいます(笑)。

やっぱり、まんがをたくさん読んでインプットすることは必要なのでしょうか?

うーん、たくさん読むと、「自分が何をおもしろいと思うか」がわかるんですよね。それが一番大事なのかなと。描いているうちに「何がおもしろいのかわからなくなってしまう」という話もよく聞くんだけれど、それはまんが家がぶつかりがちな壁で。でもたくさん読んで、「自分は」こういうのがおもしろいんだ、と思えるものがあると、そういう時にも迷わずいられる。長くまんが家としてやっていくとしたら、おもしろいと思うものもアップデートしていかないといけないところもありますよね。

<編集長>

いまの話って、「自分は」ということなんだけれど、結局「人間は」っていうことにつながるんだよね。同じ考えの人が何十万人かいれば、何十万部売れる、ということになるから。

そうですよね。例えば映画の『タイタニック』が好きな人は、「男の人が好きな女の人をかばって死ぬ」のがツボみたいで。『ターミネーター』とか『誰が為に鐘は鳴る』もそういう話ですよね。私は「なぜ死のうとするの? 生きてよ!」と思いながら観てしまうんですが(笑)、そういう人もたくさんいるんだな、いろんな視点があるんだなと思います。あとこれは以前、日経新聞で読んだんですが……ジョージ・ルーカス監督は『千の顔を持つ英雄』という本に影響を受けて、『スター・ウォーズ』3部作を撮ったらしくて。「神話」の構造を解説してある本なんですよ。

――(検索して)「ジョージ・ルーカス監督が『この本がなければ自分は『スター・ウォーズ』の物語を書けなかった』と語る神話学の古典」とありますね。

そうです、その記事です!

――この本では「英雄物語は『出立→イニシエーション(通過儀礼)→帰還』という構造が共通しており、人類の普遍的な欲求を表していると説く」(初出2016年1月9日付「日本経済新聞朝刊)、と。まさに『スター・ウォーズ』ですね……。

神話の時代から描かれていたことに、今もみんなが「うわーっ!」となるということは、もうDNAがそこに反応するようになっているんだと思う(笑)。

――「人類の普遍的欲求」ですもんね。

そういうものは、形を変えて描かれ続けていくんだと思います。

<編集長>

小説などの活字もたくさん読まれますよね。

まんがを一番多く読んで、次が活字。この前、突然「推理小説を読もう!」と思い立って。まとめサイトでおすすめされているものを上から順に読んでみたんです。そうしたら、まとめた人がどういう推理小説をおもしろいと思っているかがわかってきて。そのうち「犯人、この人でしょう? ほら!」と当てられるようになっていった(笑)。たくさん読むと、見えてくるものがあるんですよね。

たくさん観たり読んだりすると、真理みたいなものも見つけられるんですね。

そうかもしれないね。同じように、ホラー小説も読んでみたんですよ。それまでホラーはほとんど読んだことがなかったんですけど、ホラーにはホラーの礼儀みたいなのがあるんですよね。ホラー小説に詳しい作家さんたちと話していたら、「ありがちホラー」という言葉が出てきて。その時々の流行りがあって、新人賞の投稿作はだいたいそういうものになるんだそうです。今だったら「人を食べる」とか「理由のない殺人」とか。でもホラーが好きで、たくさん読んでいれば、ありがちな設定であっても、その一歩先に行くことができると思うんです。少女まんがも同じで。少女まんがをまったく読んだことのない人が少女まんがを描くと「ありがち少女まんが」になりがちな理由がわかった気がしました。

――ちゃんと読まずに「少女まんがっぽい」感じだとか、流行りだとかを集めて描こうとすると、ただの「ありがち少女まんが」になってしまうんですね。でもたくさん読んで「自分が」これをおもしろいと思っているものがあってそれを入れれば、一歩先のものが描ける、と。

そうですね。それを反映できたら、「なんか私、いいの描けた!」って思えるのかなと。「王道」とか「ありがち」と言われるものの中にも、根源的なおもしろい何かがあるはずなので。少女まんがの恋愛ものに絞っても、「私はこういうくっつき方が好きだわ」というものが、探ればあると思う。

――確かにその人ごとに好きなものがいろいろありそうです。「主人公を近くで見守ってきた幼なじみ男子の愛に、ついに主人公が気づく」とか。

「キャラ」のおもしろさよりも「こういう出来事」とか「こういうシチュエーション」がおもしろい、ということですよね。

そういうこと、そういうこと! 「描けないなあ」って思った時には、そういうものを探すような作業をするのもいいのかなと思いますね。自分のDNAはどういう部分に反応するのかがわかるといいな、と思います。

――ちなみに河原先生ご自身はどういうものにご自分のDNAが反応しますか?

私は……なんとなく「主人公が、『自分のことは、まあいいや』ってなる」のが好きかな(笑)。『俺物語!!』の猛男はそれを描いたと思います。

読めない時は、無理しなくていい!

でも私……実はあまりまんがが読めなくて。読んだら影響されちゃう、流されちゃうような気がしてこわいんです。「この人、ああいう素敵なシーンを描こうとしているんだな」とか、まんがから透けて見えそうで……。

うんうん、わかるよ。そういう話もよく聞きます。

(掲載誌である)別マは特に流し読みになってしまいます。自分が描けていない状況だったりすると「ああ、みんな載っているなあ」と思ってしまって。インプットが少なくなるのでよくないのかなとは思うのですが……心の余裕がないと読めないんですよね。

そういう時は無理しなくていいんだよね。私がまんがを読むのは楽しいからだし、気がついたら読んでいる、という感じなんです。子育てをしている時も、テレビはゆっくり観ていられないけど、まんがはちらちら読めたから……。

そうだったんですね。

絶対に読まなきゃいけないわけじゃなくて、自分がふっと読みたいと思った時とか、気になった時に読めばいいよ、本当に。その人なりのやり方でいいし、好きなことをやったほうがいい。私はいっぱいまんがを読んだほうが思考が整理されるから読みたいし、読むんだと思う。私も、小説は読みたい時に読みたいものを読むようにしていて。勉強だと思って読むものじゃない。自分が何をおもしろい、楽しいと思うのかを知るためのものだから、やりたくない時はやらないほうがいいと思います。

……今、心にずんときました……ありがとうございます!

(取材・構成 門倉紫麻)