まんが投稿

河原和音先生に聞く!実践ネーム塾
 第12回 まとめ

楽しく描けた時は、楽しく読んでもらえる

――1年間お送りしてきた「河原和音先生に聞く!実践ネーム塾」も、最終回となります。今回は技術的な面だけでなく、気持ちの面など、みなさんが聞きたいことをどんどん聞いていただければと思います!

はい! 河原先生は、まんがを描いていて、どんな時に楽しいと感じますか?

自分で「これはおもしろいんじゃないかな?」って思えるところを描いている時は、楽しいです。たまにそういう時があるんですよね……小ネタであっても、なんか「これはおもしろい! 描きたい!」って自分で思うようなことがあるの。キャラクターの感情が動いているところを描くのも気持ちがいいですね。あとは……いい感じのモノローグを書けた時とか、ふわっとしていたものが形になった時も楽しいです。読者さんからリアクションがあった時もうれしいなあ。まんがを描いていて楽しいことって……たくさんあるね。担当さんと打ち合わせして、直して「少しよくなった!」って感じるのもすごい楽しくない?

はい、うれしくて泣きそうになります。

そうだよねえ。

自分が楽しいと思って描いたところが、読んでくれる人にとっても楽しいものになっている気がします。

うん、読者さんと呼応するものがあるんですよね。描いていて楽しいところは、楽しく読んでもらえるところなのかなって思いますし、スッと読んでもらえるのかなと。

ご機嫌じゃないと、まんがって描けないような気がします……。

そう! 悩んでいる時のまんがのひどいこと、ひどいこと……! まんがにはその時の自分が出るもんね。だからテンションが高い時に描いたほうがいいと思います(笑)。テンションが低い時って、自分で「こんなのおもしろくない!」って思っちゃうし、楽しいことを描けば描くほど「こんなことあるわけない」って思っちゃう。でも「こういうこと、あるかもしれない!」って思えるテンションの時もあるんですよ。まんがは、できればそういう時に描いたほうがいいんじゃないかと思います。

「個性」とは? 「器用になる」とは?

まんが家には「個性」とか「作家性」が必要、という話をたまに聞くのですが、どういうことなんだろう?って考えてしまうことがあって……。

3人とも、勝手に出ちゃってる個性を感じるよ。どんなに人の作品を読んでも、マネをしても、個性って出ちゃうみたいだから。

出すのではなくて、出るのが個性、というか。

うん。だから安心して大丈夫。

でも、自分に何があるのかがわかっていなくて……どうしたら自分のいいところに気づけますか?

私の場合は担当さんですけど、やっぱり誰かに読んでもらうことですよね。自分ではいいと思って描いたものが、「ナシなんだー!」って思うこともよくあるし(笑)、ほめられるのは、自分では思ってもみないところだったりするんですよね。そこを残して、また描いて、読んでもらって、の繰り返しだと思います。それぞれにおもしろいところがあって、あとは読んでそこをおもしろいと思う人が何人いるか、ということ。だから今あるものを磨きつつ、器用になりましょう、という感じですね。

「器用になること」とは、具体的にどういうことでしょう。

ネームを直す時に「こうしたらもっと良くなる」というやり方がわかるようになってくるといいなと思うんですよね。

パターンを作る、というか。

そうですね。「あ、こういうことだな」って、自分の中である程度わかるようになるといい。「ここは絶対譲りたくないけど、ここはこだわりがないからウケを狙ってみよう」とか、「出だしを変えたほうが読んでいる人の気持ちをつかめるかも」とか20本も30本もネームを直していれば、少しずつそういう技術が身についていくと思います。私がいくえみ先生のマネをしたみたいに(笑)、ほかの作品を見てやり方を変えてみることも器用になるための方法の1つだと思いますよ。

引き出しを増やすようなイメージでしょうか。

うんうん。

読者に対する親切さ、わかりやすさを学んで、引き出しを増やしたいです……。

まんがを読んだり、映画を観たりしていると、たまに「ちょっとわかりづらいかな」とか「あまり読む気がしないな」と思うことってない?

あります。

そういう時に「なんでだろう?」と考えてみるといいよ。いいものとか自分の好きなものだけ読んでいると、毎回「すごい!」で終わってしまって、わかりづらさに気づきにくいので、いろんなものを試してみたほうがいいかなと思います。そうすると、自分のまんがのことも、「なんか読みづらいな」と気づくようになると思います。あ、でも前にも言ったけど(第1回)、読みたくない時には、ほかの人のまんがを読まなくてもいいんですよ。まんが以外のものを見てもいいし、好きなことをやったほうがいいと思います!

「幸せにしてあげたい」がモチベーション

先生が、少女まんがを描くうえで、これは大事だと思っていること、逆にこれだけはやらないようにと思っていることがあれば教えてください。長く少女まんが界の第一線で活躍し続けている秘訣をお聞きしたくて……。

うーん……私は悲しいものが苦手なので、必ずハッピーエンドにはしているかなあ。自分が人のまんがを読んだり映画を観たりして「ああ、この人が幸せになったらいいな」と思える人が幸せになれなかったりすると、幸せにしてあげたくなって。そういうモチベーションで描いている気がしますね。生きていると、いろいろと悲しいことやつらいことがあったりするから……物語には夢とか希望とか、なにかきれいなもの、人間の素敵なところがあってほしいんです。私自身も小さい時から物語とまんがに支えられてきたので、私の描いたものを読んで、小さくても、誰かが幸せを感じてくれたら本当にうれしいなと思っています。

うう……(感動している)。

――そういったお考えは、デビューした頃からですか?

いえいえ! 単行本の1冊目が出る時は、「いかにこれをレジまで運んでもらえるか」ってことだけを考えていました(笑)。多々あるまんがの中で、どうしたら人はこれにお金を払ってくれるのだろう、レジに持っていってくれるのだろう、と。ただそれは、今も常に考えています。

担当編集者と、どうつきあう?

担当さんとの付き合い方について教えていただきたいなと……。私、担当さんが別の部署に異動になることが多くて、何度も担当さんが代わっているんです。

担当さんが代わるのって不安だよね。私も最初に代わった時は不安だったなあ。

今では「がんばるしかない!」と思えるようになったんですが、ほかの新人さんたちの中には、逆に「今の担当さんと合わない」と悩んでいる人もいて。それもあって、デビューしたものの2作目がなかなか通らなくて止まってしまっている、と聞いたりすると、つらいだろうなあと。

うんうん。相性というのは確かにあると思う。私も担当さんとケンカしたことあります(笑)。

河原先生が!

(笑)。ダメ出しをされた時に「どう直したらいいかわからない!」と思ってしまって。私も悩んでいてうまく描けない時期だったし、意見を言いやすい担当さんだったからケンカができた、とも思うんですけどね。でも結局、私の描いているものがおもしろくなかったんですよね。だからダメだって言われたわけで。まずは「おもしろいものを作ろう」というゴールを2人で設定して、そこに向かっていかないといけないんだよね。

(うなずく)

どう直したらいいかわからなかったら、「じゃあこういうことですか?」って踏み込んで、わかるまで聞く。そうすると担当さんの中でも、ダメ出しの内容がはっきりしてくる。作品についてダメだと言われると、自分自身がダメだと言われているように感じてしまって、刺さるんですよね。それでなかなか突っ込んだことまで聞けなくなってしまう。

そうなんです!!

でもそこはがんばって、聞いてみてほしいです。しつこく話を聞くと、やる気があると思われていいと思うよ(笑)。直すところがよくわかっていないのに「はい、わかりました」と答えてしまうと、自分では直すことができなくて、なかなか担当さんに戻せなくなってしまう。そうなると、担当さんは心配しつつも「どうですか?」としか言えないだろうし。

<編集長>

担当がついているからには、必ず評価しているところがあるんです。だから、担当がつくきっかけになった投稿作の、どこがよかったかを聞いてみるといいと思う。「なんで私の担当についてくれたんですか?」って。自分の意図せぬところだと思うけど、さっき河原先生もおっしゃったように、そこが自分の長所だろうから。それを次にも生かしたらいい。2作目が通らないという人は、担当とのそのやりとりがないまま、評価されたところとは違う部分で次の作品を描いてしまっているのかもしれない。本当は、担当編集も、それを作家さんにちゃんと言わなきゃいけないんだよね。コミュニケーション不足になるのは、よくないなと思います。

担当さんと関係を作っていくことを、なんとかがんばってみてほしいなあ。コミュニケーションがとりやすくなって「それがダメなのはわかりました。とすると、こことここは残していいですか?」みたいなことを言えるようになるといいですよね。それでもどうしてもうまく関係が作れないなら、「相性の問題なのかなあ」と考えてみてもいいと思うけど。

――まずは自分のほうから、関係を作っていくことが大事なんですね。

はい。担当さんとうまくいかないと悩んだ時は、志を高く持って「すごいまんが家になりたい!」ってイメージしてみるといいんじゃないかなと。

志を……。

これは家族に言われたことなんだけど「尊敬している先生たちって、雑誌が変わろうと、担当さんが誰だろうと、ずっとまんがを描き続けているよね。そうなれないとダメなんでないか? そういうまんが家さんたちみたいに、やっていきたいんでしょう」って。それまで、自分がどうなりたいとかあまり考えたことがなかったんだけど、「私も長く、ずっとまんがを描いていけたらと思っているのかもしれない……じゃあ、がんばるしかない!」って思いました。

おお……!

あの……まず1回は担当さんの話を聞いたほうがいい、と思っているんですが、譲れない部分もあると思うんです。そこが担当さんと違ってしまった時は、どうされていますか?

自分で、「ここを描かないなら意味がない」っていうくらい、譲りたくないところって絶対あるよね。

そうなんです!

譲れないところは、譲らなくて大丈夫! 担当さんも「自分の言うことを聞け!」って思っているわけじゃなくて、「おもしろくしたい」と思っているだけだよね。だから「これは絶対に描きたいところなので、なぜおもしろくないか教えてほしいです」ってさっき言ったみたいに踏み込んで聞いて、納得するまで話し合う。理由を聞けたら、「じゃあ、こうしよう!」と直せば残せる方向性を見つけて、なんとかしていく。それでもなんとかならない時は……あらたに考えたほうが早いなと判断して、作品自体を描くのをやめることもありました。短編は特にそうですね。

――直すのをやめて、いったんボツにして、新しい作品を描く、ということですね。

はい。そういうことをやっているうちに、だんだんボツにならなくなっていくんだと思います。やっぱり……長くまんがを描いてきて、なかなか厳しい世界だなって思うんですよね。

はい……。

だからこそ、せっかくデビューしたのに、描くのをやめてしまうのはもったいないよね。みんなには才能があるわけだから!……どうしてもずっと見守っている仙人みたいな言い方になっちゃうんだけど(笑)。

まずは、描き切ること!

――最後に、まんが家になりたいと思っている人、投稿してみようと思っている人へのアドバイスをお願いします!

自分の思いついたことを描き切ってください」ですかね。とにかく、完成させる。そうすると投稿できるし、批評をしてもらえますから。その批評を見て、もう一度描く。そうやっていくしかないんです。

――まず誰かに読んでもらって、リアクションをもらわないと始まらない。

リアクションされて初めてわかる。私の初投稿は……全然ダメでした(笑)。投稿作に、何か大きなテーマが必要なわけではないし、こういうことがないとダメということもない。思いついたことを最後までしっかり描くことです。

先生は、初投稿前に誰かに見てもらったりされましたか?

全然していないです。友達と励まし合ったりもしなかったなあ。自信ないし、友達にまんがを描いていること言ってもいないし、恥ずかしいし……。一人で描いて、一人で投稿して、一人でダメだった!って落ち込む、みたいな。全部一人です(笑)。

――近くの人ではなく、投稿することによって自分以外の人に読んでもらったわけですね。

そうですね。本当に、まずは完成させて、出してみる。そこが第一歩です。完成させず、外に出さずにいたら、一生誰にも気づかれない。完成させたら、それだけで偉いと思います。だから今投稿者の方に声をかけるとしたら……「その途中で止まっている原稿を、最後まで描こう!」ですかね(笑)。たぶん途中になっている子がいると思います。その原稿、無理矢理にでも出したほうがいいですよ!

まさに「あきらめない」(第10回)ですね……!

そう! みんなに「その原稿を描き上げるまで、このスマホは返さないぞ」と言いたい(笑)。

(笑)

初回でも言いましたけど、今、世の中的にも、恋愛に関する考え方とかいろんなことが変化しているよね。少女まんがを描くうえで、私自身も今、エポックメイキング中というか、自分のまんがを見直しているところなんです。だから……いっしょにがんばろう!

がんばります! ありがとうございました!