まんが投稿

河原和音先生に聞く!実践ネーム塾
 第7回 ストーリー その③

テーマは、あまり必要ではない

読み切りの「テーマ」についてなんですが……1つの短編にいくつもテーマが入っているとよくないな、整理しないといけないな、といつも思っているのですが、難しくて……。

テーマって……実はあんまり必要じゃないと思うんですよ。

そうなんですか!

いじめとか差別みたいなものを扱う問題提起的な作品とか、社会派な作品は別として、なんですけど。デビューしたての、読みきりばかり描いていた頃の話なんですが……自分ではテーマ重視で描いていたのに、「なんのテーマもないや」と思って描いたものに編集さんからOKが出たんですよ。ボツになったのも併せて10本めくらいだったかなあ、「女の子が、思ってもないことばかり言っちゃう」だけの、「すごくアホみたいな話だなあ。まあ自分のことなんだけど」と思いながら描いたマンガがあったんですけど、担当さんが「これでいい」っていうんです。掲載されたあと、編集部にあいさつに行ったら編集長にも「こないだのやつよかったよ」って言われて。「こないだの……あの何もないやつ?」と(笑)。そういうことがあって、ああテーマってあんまり必要じゃないんだなって思ったんですよね。もちろんテーマがあるものを描いてもいいし、人それぞれなんですけど……私にはそういうものが合っていたんだと思います。物語の中をキャラクターが生きていて、それを読んだ読者さんが何かを感じてくれたり、考えてくれたりして、それが結果としてテーマになることもあるのかなと思います。

――10本読み切りを描いて気づいたということは、やはりいろいろなものをたくさん描いてみることも大事そうですね。

そうなんですよ。自分でいろいろ描いて、人に見てもらうしかない。いろんなパターンで描いているうちに、「私の場合はこういうものがOKって言われるみたいだな」とわかってくると思います。だから描くしかないんですよ。私は連載が決まるまで、読み切りを描いている時期が長くて。なので、自分で勝手にシリーズみたいなものを考えて描いていました。

シリーズですか?

そう。最初は、「男の子シリーズ」。読み切りごとに、背が低いとか高いとか、自分なりに男の子に特徴を持たせてみるシリーズ、というのをやっていました。それも尽きたら、「学校行事シリーズ」。体育祭とか文化祭とか、学校の季節ごとの年中行事を舞台にしたシリーズですね。そうやってたくさん描くことで、いろいろなものを考えるヒントにしていました。あと、自分が体重を気にしていたので、そういう女の子の話を描いたりもしたかな。読んでいる人に近いものを選びとりたい、と思っていました。

――大きな「テーマ」を設定するのではなく、舞台や内容にバリエーションをもたせていろいろ描いてみる、ということですね。

いろいろなものを描く中でも、「これは入っていたほうがいい」という要素があるとしたらどんなものでしょうか。

「恋愛」ですね。少女まんがでは、読者は主人公と相手、ふたりの気持ちのやりとりが見たいのだと思います。やっぱり、「別マ」は恋愛を求めている人が読んでいる雑誌なのかなと思うんですよ。何年か自分で描いてきて思ったことですが、恋愛要素が入っていないものは受けにくいような気がしていて……私はやっぱり受けたい気持ちがあるので(笑)、恋愛は避けては通れない。じゃあほかの少女まんが誌で、と思うかもしれないですけど、ほかでもやっぱり恋愛じゃないものを読みたい人は少ないのかなと。だから少女まんが家として食べていくとしたら、やっぱり恋愛を描いていたほうがいいのではないかと思います。もちろん恋愛じゃない少女まんがも読みたいと思っている人もいるし、私も思っていますが、人数でいうとそういうことになるのかなと。なので、少女まんがでは恋愛を描くことにチャレンジしてみてほしいです。

<編集長>

まんがスクールの応募作には主人公がコンプレックスを乗り越えた、みたいな応募作も多いですよね。

私はそういう話が好きで、泣きながら読んだりするんですが、幅広くは受けないみたいだなあというのが、感覚としてあるんですよね。コンプレックスに向き合うと、主人公が暗くなっちゃうからなのかな……。ただコンプレックスについて描く時も、恋愛と切り離さなくていいと思うんですよ。人を好きになって初めて、自分のコンプレックスに向き合う、みたいなこともあるので。

確かにそれだと、コンプレックスに向き合う話でもハッピーな感じがします!

あと、恋愛以外……コンプレックスとか自分探しとか友情みたいなものについて描くな、っていうわけじゃなくて……そういうまんがを強く求めている人も絶対いるので、自分で「描くんだ!!」と思ったら、ぜひ描き切ってください。私も「描きたい!」と燃えたら、描くと思います。

はい!!

恋愛経験は関係ない。「ありそうな嘘」をつこう

――自分にはまだあまり恋愛経験がない、というような場合、「恋愛を描くのはハードルが高い」と思ってしまう方もいらっしゃるかなと思うのですが……。

まだ一度も彼氏ができたことのない状態の時って、描きながら自分で「こんなうまいことあるはずない!」と思ってしまいますよね。でも、それをやりきってこそプロというか。自分の身に起きたことばっかり描くわけにはいかないですから。経験していないことをリアルに描くことが、まんが家としての第一歩みたいなところがあるんですよね。現実では「ここで好きな男の子に声をかけられないで終わるんだよな」とか「ほかの女の子のことが好きなんだよな」って思ったとしても、声をかけたり、主人公のことを好きだったりすることが「ある」ように見せるのが、まんがで人に夢を見せられる人のような気がします。

――恋愛の経験値が高いかどうかとは、関係ないのですね。

はい。ありそうな嘘をつけるかどうかだと思います。私も学生時代モテてきたわけじゃなかったので、モテについて自分なりに考えたりはしていました。モテる人が実際どれくらいモテてきたのかを、一人で統計をとったりとか(笑)。どのラインからがモテる人なのか?とかね。

「あの子いいよね」って言われたら1モテじゃないでしょうか。「好き」って告白されたら3モテ。彼氏ができたら、10モテ!

10モテたまると何かもらえる(笑)。そのまま、まんがになりそう!

人を好きな気持ちって、すごくきれいなもの

――「ときめき」や「恋する気持ち」を表現する時に、どんなことに気をつけたらいいでしょう。

別マのほかの作家さんたちの作品を見ていると、みなさんそれぞれ自分の得意な方法で描いていますよね。すごくテクニカルに、やりすぎない、ぎりぎりのところを攻めていく、という高等技術を駆使している方もいますし、ほっぺの斜線をすごく増やして(赤面している状態を)表現する方もいますし。

――河原先生ご自身は、どう表現されていますか?

私は、ドタバタさせちゃいますね。照れちゃうのかな(笑)。でも私がときめきを描くなら、無理に違うやり方をするより、ドタバタさせたほうがいいのかなと思うので。

ドタバタしているんですけど、主人公の気持ちがすごく正直で、ぐっときます。

なんかね……人を好きな気持ちってすごくきれいなものじゃない? 誰かを好きになった人を見ていると、その気持ちが、泣きたいくらいきれいだなと思う時があるの。私は、そういうものを描いておきたいんです。
クラスの女子がいくつかの集団に分かれるとしたら、私は一番人数が多い集団にいて。だから彼氏がいる子もいたり、いない子もいたりしたんですけど、恋って、うまくいかないことのほうが多くて……だからそういう人たちを応援したいという気持ちはこめて、恋愛を描いています。

……(ぐっときている)。

人を好きになる気持ちはいいことだよ!みたいな。お母さんみたいな気持ちですね(笑)。

河原先生のまんがには、河原先生のやさしさがつまってるんだなってことがあらためてわかりました……!

いやいやいや! やさしくないですよ。私、すごい邪悪なところがありますからね……(笑)。ただ邪悪なものを描こうとすると、邪悪に浸らないといけないじゃない? それをするのがすごくしんどくて……私にはできないだけなの。闇が深いほど光に憧れるというか、小さな光でもまぶしいというか……(笑)。