まんが投稿

河原和音先生に聞く!実践ネーム塾
 第11回 演出

「大事なところ」をどう見せる?

――今回は演出についてお聞きします。まず演出全般についてなのですが……河原先生はいつも、ごく自然なのに読者の気持ちが大いに盛り上がる演出をされていらっしゃいます。何かコツのようなものがあればぜひ教えてください。

いえいえ! 私もうまくやれているとは思っていないのですが……とにかく、「ときめき」とか大事であろうコマは、その時の全力で、うざいくらい一生懸命描く!ということでしょうか。精神論みたいになってしまってすみません。

――確かに、作者が注いだ力とか気迫みたいなものは、読者に伝わる気がします。

特に、女の子の表情はしっかり描くとよいと思います。「表情」と「キレキレのモノローグ」はほぼ同じというか、表情の描き方で、言葉にしなくても感情を伝えられると思うので。

――表情には情報が多いんですね。

以前、『アイシールド21』の村田雄介先生がインタビューでおっしゃっていたんですけど、気合を入れてアメフトの試合のシーンを描いたのに、読者アンケートがよくなかったことがあった、と。背景がメインになっていたり、顔が横を向いていたりしたことに気づいて、キャラクターがどんな気持ちでプレーしているかを表情で見せることが一番大事だと思うようになったそうです。(※↑『マンガ脳の鍛えかた』に載っていました)読者さんが見たいのは、彼らの気持ちだから、ということですよね。常に何を描くかということを考えなきゃいけないんだなと思いました。「読者さんが何を見たいか」というところにどれだけ寄れるかが大事なのかなと思います。

――確かに読み手としては、登場人物がどんな気持ちで試合をしているか、ということが知りたいですもんね。

あと……「カット割り」に関しては、映画のカメラを回しているような気持ちです。気持ちだけですが(笑)。

――どこを切り取って、どうコマの中に収めるか、ということですよね。自分でカメラを持って人物に寄ってそれをアップで描いたり、思い切り引いたところから撮って遠景で描いたり、と。

そうですね。そうやって描いたコマをどうつなげていくかも意識しないといけなくて。アップだけが多くなってしまうと、「ここはアップで見せたい」という大事なコマが目立たなくなってしまう。アップを生かすためにも、時々ロング(引きの絵)を入れていくのがいいと思います。あと、コマの大きさ自体も大事なところは大きくしたりしますね。

――なるほど、映画は同じ大きさの画面の中でアップかロングかだけですが、まんがの場合はそれに加えて画面=コマの大きさそのものも変えられるわけですもんね。

はい。自分で「このコマだ!」と見せたいコマがある時は、ほかのコマと差をつけて、かなり大きくします。同じくらいの大きさだと、セリフも同じくらいの強さに見えちゃうのでもったいないんですよ。

私、河原先生のつめるところはつめて描いて、見せるところはガーンと大きなコマで見せる感じがとても好きで。例えば『こんな私でよかったら』で「いい 信じたい!! 信じる!!!」というセリフで1ページまるごと使うなんてすごい!と。

いやあ、あれはページ数が多かったから、そういうゆったりしたこともできたのかなと思うんだけどね(笑)。でも大事なところでコマは大きく使う、というのは大事かなと思います。

「会話」のシーンを単調に見せない方法

私は会話のシーンが難しくて……会話しているキャラが順番に出てきてセリフを言って、というように、同じようなコマが連続してしまって、単調になってしまうことがあります。

私も、とにかくセリフをたくさん入れようとしちゃうので会話劇になりがちで。昔から注意されているんだけど……難しいよね。なるべくそういう(ただの会話劇のような)印象を与えないようにするにはどうしたらいいのかな?というのは、今も気にしています。

どうしたらいいのか、ぜひ知りたいです!

やっぱり、さっき言ったようにロング、アップ、大ゴマ、小ゴマ、セリフだけのコマ、セリフのないコマ、みたいなものを組み合わせてなんとかする、というのが初歩的な方法なのかなあと思うんだけど……もう少しステップアップした方法もあるのかなと。

ステップアップした方法! 知りたいです!

まず1つめは……「動かす」。歩きながらとか、掃除しながらとか、登場人物を動かして話をさせてみる。

ただ立ったままとか座ったままにしないんですね。

そうそう。水野美波先生が以前、「黒板を消す」みたいな動きを入れるだけでも印象が変わる、とおっしゃっていて、すごく参考になる!と思いました。みなさん、色々な方法を考えていらっしゃるんですよね。

――何かをしながらの会話、とても自然ですし、変化もありますね。

2つ目は「情景が伝わる場面にする」

情景……。

どうしても、「いかにも会話劇」という感じのコマ運びになってしまった時は、「夜でーす」とか「雨でーす」とか「ここは人通り多いでーす」「教室で夕方で逆光でーす」みたいに、現実をイメージしながら、その情景が伝わるように描いて、シーンとしてきれいにまとめてみる。音も入れてみるのもいいと思います。

――その情景も込みで、会話の印象を強く残してくれそうですね。

3つ目は、「表情を著しく変える」

コマごとに表情を変えて描く、ということでしょうか。

そうそう。コマによって違う顔をしていれば、ちゃんとキャラクターの心が動いていることがわかるので、単調には感じないかもです。最後は……「“会話でつないで同じようなコマが連続するネーム”は描き直す」。

!?

(笑)。そうなってしまうのは、「そもそもネームがつまらないから」という可能性が高いので。ネームそのものを描き直してみるのもありだと思います。

なるほど……!

――すごく具体的で参考になりますね。

私も本当に試行錯誤していて……。ほかの先生方の作品やお話を聞いて勉強中です。いくえみ先生のまんがを見ると、背景だけのコマとかリアルな小物のアップだけのコマがあったりして。すごく読みやすいなあと思ったんですよね。教室とか同じ場所でのシーンがずっと続いちゃったりする時に、小物のアップを入れてみたりするといいですよね。

そういうコマが入ると、いい感じに間ができますね。

そうだよね。画面に良い緊張感も出る気がします。あと、めっちゃかっこいいですし(笑)。手だけとか後ろ姿とか……ドラマチックでいいですよね。よく、「かっこいいな、私も描いちゃおう!」みたいな感じでマネをして描いてました。インフルエンサーのマネをする、みたいな(笑)。最初はそれでいいかなと思います。

まずはマネからで。

ただいくえみ先生はあらゆる角度であらゆる物を描ける方だから……信じられない方向から描かれていることがありますよね。とにかく画力が……画力が必要ですよね。みんな、絵をがんばろう! 私もがんばる!

はい!

……いろいろチャレンジしてみるといいと思います。さっき石田さんが言っていた、1ページにセリフ1つだけみたいなの(「いい 信じたい!! 信じる!!!」)も、「このまんがには1ページにセリフ1つだけドーンのページを作るぜ!」って自分で意識してチャレンジしてみるのもいいんじゃないかな。私も、たまに自分の中でミニチャレンジをするんですけど、うまくいってない時は担当さんが止めてくれます(笑)。楽しくチャレンジしましょう!