まんが投稿

河原和音先生に聞く!実践ネーム塾
 第8回 ストーリー その④

「別マらしさ」とは?

先ほど、別マの読者は恋愛を求めているというお話もありましたが、「別マらしさ」みたいなものを、どれくらい意識されていますか?

うーん、意識して描くというより、描いてみてからわかる、という感じですかね。「これはおもしろいんじゃないかな?」という思いつきを描いて、読者さんのほうで選んでくれる形なので。もし描いたものがウケたら、次はそっちに寄せていく。そうしていくうちに、別マの読者さんに響くものが、自然に残るんだと思います。

<編集長>

編集者は読者のアンケートを気にしながら作っていますからね。作家に直接アンケート結果を伝えはしないけど、アンケ―トがさがると思えばやっぱり……

空気には出ると思う(笑)。編集さんの雰囲気を見て、「ああ、なんか空気が重苦しいぞ」と思って「もうこういうものは描かないぞ」と思いました。
ものすごく褒めてもらいたいというわけではないんですけど、担当さんが「うーん」という反応だったら、「ひっこめます!次はこういうのどうですかね!」って全然違うタイプの話を提案したりしましたね。デビューした頃は、何回もそういうことがありました。やっぱりウケたい根性があるんです(笑)。今はアプローチを変えたり、展開を盛ったり、キャラクターをもっと動かしてみたり、と描きたいことは残しつつ、ネームも触れるようになりましたね、少し。まだまだですけど。

<編集長>

編集部が「別マらしさ」を決めているわけではなくて。読者の求めに応じて考えているだけなんです。

そうですよね。だから描いていてわからなくなったときは、なんとなく読んでくれる人のことを思いやってみるといいかもしれないですね。「喜んでほしいな」という気持ちで考えてみることは大事だと思います。「別マに合う」というより「別マ読者さんがよいと思ってくれる」ということが大事なので、描きたいものが担当さんに響かなくても、読者さんに響くこともあると思う。だから、表現したいこと、描きたいことがあるなら、まずは描き切ってほしい。次の時代を作っていく作家さんには、そういうところがあるのかなと思います。あとたまには「これウケないだろうな……でも描きたい!描く!」ってやっちゃってもいいかもです。たまには、ですけど(笑)。描き切ってみて、ダメだったら、それからまた考えましょう。

――恋愛についてお話いただいた時にもおっしゃっていましたが(第7回)、基本はやはり自分のおもしろいと思うものを描き切る、という姿勢が必要なのですね。

まずはそれなのかなと。私の個人的な経験として、「別マとは?」とか「恋愛とは?」とか考え出すと、たいてい描いているものがつまらなくなるんです(笑)。そういうことは考えず、まずはキャラとストーリーと、シーンのことを考えて、自分のテンションがあがるのはどんなものなのかを探る。自分の心が動くものを描くことが大切だと思います。

――作家の心が動いていないと、読んでいる人の心も動かないですね。

あとこれは、自分が年をとって思うようになったことなんですが……別マらしさというのは、今までの歴史の中で、先輩の漫画家さんや担当さんたちが、読者さんとみんなでつくりあげてきている、連綿としたエピック……大叙事詩というか「物語」のようなものなのかなと。

――「別マサーガ」ですね……!

そうそう! それをどう解釈して、どう感じるかは、一人ひとり違う。その物語の中に自分が、最初は読者として、今は描き手として混ざることができるというのは、幸せ以外の何ものでもないなと思います。

――素敵なお話です……。

みなさんのように若い頃は、「別マとは何なのだろう!? わー! どうしよう!?」と考えていてよいと思います(笑)。あ、それともう1つだけ……自分が別マを読んでいて感じることなんですけど、倫理観はしっかりしているのかなと。マンガの中に出てくる子たちが、みんなまじめだよね、本当に。好きな人に対して、男の子も女の子もみんな思いやりがあるのがいいなあ、えらいなあといつも思います。前に、編集さんから「少女まんがは道徳の教科書だから」って言われたことがあってね。私もあんまりへんなことは描かないようにしようと思いました(笑)。

「思春期」は大人になってからのほうが描ける!

別マの主人公って、高校生とか学生が多いですよね。あらためて思うんですが、河原先生は今の学生生活をビビッドに描かれているところもすごいなと……。

トレンドを取り入れていらっしゃいますよね。「カップルアプリ」も、『素敵な彼氏』で初めて知りました。

担当さんが、女子高校生の流行りとかそういうものに詳しくて、教えてくれるんですよ。

私は、もう思春期をとっくに過ぎてしまって、あの頃のことを描けるのかな?と不安な気持ちもあるのですが……。

むしろ今のみなさんくらい、20~30代の途中くらいの年齢の時があんまりずれていなくて、一番いい時期なんじゃないかなと思います。

今がですか!

うん。『青空エール』で取材をしていた時に、在校生はもちろん聞かれたことにていねいに答えてくださったんですが、卒業生は「あの時はこうでした」と細かいことを話してくれることが多かったんです。もうそこから離れているから話しやすいというのもあるでしょうけれど、経験が熟成されている感じがするんですよ。振り返ったほうが、語りやすいのだと思う。真っただ中にいる時は何が「今」だとか、「思春期」だとか考えもしないですよね

確かに……自分のこともそうですし、自分以外の人が考えていることを察するのも難しかったです。

うんうん。今、みなさんは振り返り期ですよね。思春期のことを描くのに、一番おいしい時期だと思いますよ。私くらいの年齢になると、また「今」を実感できなくなってはいるので、そこは諦めないといけないなとは思うんですけどね。

でも、先生の描かれるものは、いつまでもみずみずしいです。

うーん、どうだろう……「純粋培養されてきたんだなって思う」とか「すれてない」と言われることはあります。こんなに邪悪なのに?って思いますけど(笑)、それとはまた別ベクトルの話みたいで。私だけじゃなくて、みんなもそうでしょう? 誰かのことを「好き!」って普通に思えるのって、珍しいみたいだよ。私は頭の中が少女まんがなんだなって思いました(笑)。

今描いている話の中に「全部」入れる

――この前、桐山くんサイドから、ののかと出会った時のことが描かれましたよね(9巻収録)。「あの時はああだった」みたいなことというのは、どの時点で決めるものなのですか?

あの回を描きながら決めました(笑)。話の途中では全然決まっていなくて。

そうだったんですか!

はい(笑)。これは……読み切りではなくて連載の時のコツなんだけど、先のことを考えないで、今描いている話の中に全部入れるの。次の回はこういう話だから今回はこうしておこう、とか考えずに、この回はこの回で描くんです。

それはこわいです……!

こわいよね、何も持たない状態でいるのは。だけど、なんとびっくり、次の月になったらちゃんと何かが浮かんでくるのさ(笑)。前に聞いたことがあるんだけど、前後編で話を考えて持っていったら、編集さんに「前編に後編の分も全部入れて、後編は後編で考えるように」って言われた作家さんもいるみたいですよ。

<編集長>

最後までできたから「これで安心」と思って担当のところに持っていったら、そう言われた、と。前後編の場合、展開的にどうしても後編のほうが話が盛り上がりやすい。そうすると、前編が「後編のための前編」みたいになってしまっておもしろくなりにくいんですよ。だからそう言われたんだと思います。連載でも、描いている人は「この後面白いことが起きるんです」って思っていても、その回がおもしろくなければ読者は脱落していっちゃうから……。

連載って、そうやってその回ごとに描かないと、成り立たないんですよ。『君に届け』は、30巻続く連載になりましたが、最初は読み切りだったので、第1話に全部の要素が入っていましたよね。

なるほど……。

やっていくうちに気がつくんだと思うよ。どういうふうにこの男の子を陥落させるか、みたいなことも、最初はわからない状態で描き始めるんですよ。そのあたりは、読み切りとはずいぶん違いますよね。ただ、気持ちの方向性は最初からあったほうがいいかなとは思います。

誰と誰がくっつくか、とかですか?

そうそう。最後はハッピーエンドでこの人とくっつく、くらいは決めておいたほうがいいかな。好みの問題なんだけど、それが最初から示されているようなもののほうが、私は読みやすいなと思います。何を期待して読めばいいのかがわかるほうが、私の頭がらくちんなんです(笑)。

連載は「いい話」なだけではだめなんです

――連載には、読みきりとはまた別のコツや大変さがあるのですね……。マンガ家を目指している方には少し先の話になるかもしれませんが、連載で気を付けることについてもう少し伺っていいですか? 先生は読み切りを経て連載に進んだ時、最初からスムーズに描くことができましたか?

いえいえ! 話としてはまあ、まとまっているし、すごくだめってわけじゃないからOKは出る、でもいま一歩先に行けない……というような時期がありました。自分には足りないものがあるなと感じていましたね。

足りないものって……何だったんですか?

うーん、連載作家として残ろうとするなら、読者さんに「いい話だった」って思われだけじゃだめなんですよね。「これ好き!」って言ってもらえるような何かがもう1個ないとだめなの。

そのもう1個ってなんですか?

その時は、担当さんと「3大ウケネタ」みたいな話をして、それをやりましょう、という話になって。

みんなが読みたいと思っているような、ウケるネタを「もう1個」として入れた……?

そうそう。その時代は、みんな「先生ネタ」が好きらしいですという話になったので、完全にウケ狙いで『先生!』を描いたんです。今だったら……何が「3大ウケネタ」なんだろう。そういうのを考えるのが趣味なんですけど(笑)。

ということは、先生ものがすごく描きたくて描いたというわけじゃなかったんですか?

なかったです(笑)。でも自分が先生ものを描くからには、どういうものを描いたらいいかなと一生懸命考えましたね。

――ウケると言われているネタをただ描くだけでいいというわけではない、と。

そうですね。それまで何回か連載が続かず終わったりしていたので、いろいろと考えて描きました。「連載は1話目がすべてだから」と言われたので、それまでの連載では2話目以降で描いていたようなことも、1話目に入れました。

――さきほどの前後編の後編も入れてしまう、みたいなことですね。

そうですね。「これから私たちどうなるの?」みたいなところで1話目が終わるのではなくて、その先まで入れなきゃいけないな、と思いました。

ほかに、読み切りと連載は、どこが違いますか?

やっぱりキャラクターをだいぶしっかり作らなきゃいけないと思います。読み切りのキャラクターが弱くていいというわけではないんだけど……なんていうのかな、「この人はこうである」という部分の一番強いところ、柱になるところを、読み切りよりさらにしっかり持っておかないといけない。それがないと、後のほうで苦しくなってきちゃうんだよね。

連載の途中から人格が増えて行ったりもしますか?

それはもちろんします。さっきの桐山くんのように、「昨日考えた」みたいなことが入ったりしますから(笑)。「この人、どういう人なのかな」っていう作業を、連載中ずっとしていくんですよね。でもそれは楽しいことだよね。その中で、その男の子や女の子の「ここがいいのさ」っていうものがぶれずにあると、読者の方にわかってもらいやすいような気がしています。まだ全然できていないんだけど、私も。

――先ほどの、桐山くんとののかの出会いの場面の前に、過去の恋愛での苦い思い出のようなことも描かれていましたが、描こうと思われたのはなぜですか?

話が長くなってくると、差別化というか、今まで別の作品で描いてきたキャラクターとどう違うのかを見せないといけない、というのもあります。それに、キャラクターの話をした時に(第4回)「過去を出す方法」について少し触れたと思うのですが……。

――「読者に親しみを持ってもらえる効果」の1つとして、過去を出す方法もあるよ、とおっしゃっていました。

はい。男の子にしろ、女の子にしろ、キャラクターそれぞれに「今までのこと」というのがありますよね。それまでの人生で、全く何もなかった子というのはいなくて。そういう過去のことが、誰かとよい出会いをして、いろいろと考えたことで、ちょっと意味をなしてくる……みたいなことが描かれていると親しみが持てるというか……私はそういうのが好きなんだと思います。現実では、黒歴史のままなことのほうが多いと思うんですけどね(笑)。