河原和音先生に聞く!実践ネーム塾
第9回 ネーム その①
ネームの前に「頭の中で」最後まで作る
今は書いていないですね。以前書いていたころは、箇条書きとかではなくて、結構細かく書いていました。
――今はどういったやり方をされていますか?
日ごろから思いついたことがあったらどんどんメモしていったり、覚えておいたりして。そういうものをいくつか思い浮かべて、話の流れを頭の中でだいたい最後まで作ります。
何か「ここに行くために」というようなゴールを設定して、思いついたことを並べていくのですか? それとも自然な流れで最後までいくんですか?
私は「ここに行くために」っていう作り方ができなくて……思いついたことがあったら、その前に何が来るかというのをふわふわっと頭の中で流してみる。流れが簡単にいかなかったら、それ(思いついたこと)はもう使いません。うまくいく時は、ポンポンポンといくつかの思い付きが絡んでいって、7割くらい流れができれば、あとは足りないところを一生懸命「ここは、こうなんじゃない? こうなんじゃない?」って考えてつないでいって、最後まで作ります。
「ちっちゃいネーム」なら直しも簡単!
――頭の中で最後までできたら、次はネームに入るわけですね。
そうです。まずは「ちっちゃいネーム」ですね。
ちっちゃいネームですか?
はい。A4の紙を16分割して、そこにセリフだけをどんどん入れていきます。紙が小さいと、「たったこれだけなんて少ないぞ! どんどん埋めていくぜ!」みたいな気持ちになれていいんです(笑)。
絵は入れずに、1回分のお話を最後まで書き切るんですね。
そうですね。最初は、思いつくがままに、書きたいことを書いていっていいと思います。ちっちゃいネームだと、大胆な直しも簡単なんですよ。読み切りなら1枚で全体を俯瞰できるから、このあたり全部前のほうに移動、ここはなんか足りない気がするから横に書いちゃえとか、簡単にできます。
――1枚の紙に1見開きのような大きさだと、常に全体を見渡すのは難しいですが、ちっちゃいネームなら常にそれができて「1ページ目のエピソードを8ページ目にもっていこう」というような直しがしやすそうです。
そうですね。私は特に「全体の流れ」が気になるほうなので、ちっちゃいネームを一度書いたあと、それを見ながらもう一回、全体の流れがちゃんとできているか、出来事を書き出して矢印でつないでいく「構成」みたいなものを書いてみて、そこで問題点が出てきたら、またちっちゃいネームに戻って直したりします。
――「構成」というのは例えば……「出会う」「ケンカ」「仲直り」「ライバル登場「告白」と文字で書いて、それを「→」でつなぐような形式でしょうか。「出会う→ケンカ→仲直り→ライバル登場」というような。
そうですね。各項目それにプラスして、出会う「〇〇と思う」「〇〇というできごと」→ケンカ「理由は〇〇」「〇〇というエピソード」「〇〇という気持ち」……くらいのことは入れておきます。
できたと思ったら、全体を何度もチェック!
ほかに、ちっちゃいネームの段階で気をつけていることはありますか?
何か「これ」というセリフやエピソードみたいなものが入っているかどうかは気にしていますね。そういうものが場面ごとにないと、おもしろくならないので。
――流れがよくても、何か「これ」というものがないといけない……。
はい。最初から何か思いついている時はいいんですが、ない時はがんばって考えて、入れて行きます。
――これでちっちゃいネームは完成ですか?
そこまでできたら、また全体をチェックします。流れはいいか、ありがちじゃないか、キャラクターたちはおもしろいか、この子らしいか、違和感がないか、このエピソードに意味があるか、もう少しおもしろくできないか……とチェックして、ピンとこなかったらエピソードやセリフを外してみたり、差し替えてみたり。地道にやります(笑)。
――そうやって全体を見渡すことが大事なのですね。
そうですね。2回くらいとか……場合によっては10回くらいチェックするといいと思います。集中してやらないといけないので、なるべく短い時間でやりたい……しんどいので(笑)。
ちっちゃいネーム→大きいネーム→下描き、と最後まで直す
――次は絵もある程度入った「大きいネーム」にしていかれるのだと思いますが、こちらのサイズは?
B4かA4サイズの紙を4分割して、1枚につき4ページ分入るようにします。
ちっちゃいネームから大きいネームにいく時にも、どこか変わったりしますか?
まだちょっと足りないかなっていうところを足したりはします。それをもとに担当さんと打ち合わせして、さらに直していきます。下描きをする時にも、また直しますね。
最後まで直していくんですね……どんなところを直すことが多いですか?
私はセリフが多すぎるので、削ることが多いですね。特にモノローグは、私の場合、長いと弱くなるような気がして。ちょっと話がずれるんですけど……私、「行動とモノローグにギャップがある」状態がまんがとしてすごく好きみたいなんですよ。こういう行動をしているけれど、心の中では全然違うことを思っている――そういうバラバラな感じを描きたいんだと思います。なのでモノローグは結構しめきりぎりぎりまで粘らせてもらったりしますね。ネームの段階で決まっていなかったら「こういう内容のセリフを入れたいです」と内容だけ書いて渡したり、3パターンくらいセリフを書いて渡したりもします。
自分で決め切らずに担当さんに選んでもらうこともあるのですか。
自分では、同じようなセリフばかり書いてしまったりもするので、担当さんがビビッドにおもしろいと思うものを選んでもらったほうがいい時もあるなと。
<担当編集>
でももちろん、9割9分9厘は入っていますよ!
はい(笑)。本当に自分で選べない時だけ、そうしています。
セリフのちょっとした部分で、キャラクター性を出したい
――今、モノローグについてお話いただきましたが、河原作品はセリフがとても素敵ですよね。奇をてらわない日常的なセリフにも関わらず、ハッとさせるし、わかる!と思わせるものが多いように思います。
『素敵な彼氏』(8巻)で桐山くんと腕が触れ合った時にののかが言った「すはだやばいよね!! すはだやばい!!」とか……読んでいて、すはだやばいよね~ってなります。
ありがとう(笑)。私、いくえみ綾先生や紡木たく先生がすごく好きなんですが、先生方は(日常的な)セリフまわしだけでキャラクター性を出していらっしゃいますよね。それに憧れて私もデビューしてすぐにやろうとしたら、キャラクター性が出るどころか、担当さんから「これだと、ただ特徴のない人だよね。あれは紡木先生といくえみ先生だからできるんだからね」と言われまして……その通りですと、もう言葉もなかったんですが(笑)。
――「日常的」だと「特徴がない」に傾く可能性もあるんですね。
日常に見えるくらいリアルだったけど、決して日常生活をただ描いているわけじゃないんですよね。外側だけ真似した私が未熟でした。そこに人間とか、魂とか、心がないから、退屈な日常を描いただけの何かになってしまったのだと思います。
なるほど……。
なので、私のセリフは日常的とはいえ少しまんがっぽいほうに寄せてはいます。でも語尾であったり、セリフのちょっとした部分でキャラクター性を出したい、とは今も思っています。
――今回からネームについてお話を伺いますが、その前に……河原先生は、ネームの前にプロット(あらすじ)は書きますか?