河原和音先生に聞く!実践ネーム塾
第10回 ネーム その②
ネームにつまったらどうする?
最初のネームが最後まで描けないのかな? それとも一旦描いたものを直して完成させるのが遅いのかな?
どちらもだと思います。
最後まで描き切れない時というのは、どんな状態になるの?
プロットをネームにしているうちにプロットと違ってきちゃうし、「これはおもしろくないんじゃないか」みたいなことを延々考えて1/3くらいのところで止まってしまったり……なかなか最後まで描ききれません。
わかるよ……! そうなると、何も描けなくなるよね。
そうなんです! そこからの這い上がり方みたいなものがあれば、ぜひ教えていただきたいです。
1/3までできているなら、キャラクターはできているということなので……やっぱり、そのキャラクターと話してみる感じですよね。
――第3回でキャラクターと話してみることについてお話しいただきましたね。「『自分のよく知っている人』みたいな感じで、その人についてよく考えてみる感じ」と。そうすると、「『だからこの人ってこうなのかな』って自分の中でだんだんその人がどういう言動をするか、わかってくる」とおっしゃっていました。
そうですね。にしひろさんの場合は……話してみても、キャラクターが動いてくれないということなのかな?
ええと……キャラと話をしていると、「え、そっちに行くの?」みたいな想定とは違う方向に行ってしまうんです。ネームの前の段階で「こういう話が描きたい」から始まって「じゃあこういう子たちで!」とキャラクターが決まると、その子たちに愛着が生まれてしまって。目指していたゴールとは違う話ができあがるという感じです。キャラを優先させすぎるのかもしれません。
うんうん。キャラクターと話しているうちに、違う方向に行くのは、ネームを完成させる過程としては、合っていると思うよ! 名作を描かれるまんが家さんたちにもそうおっしゃる方が多いです。大丈夫です。
できれば最初からゴールに行ける道に気づきたいです……。
でも回り道を繰り返して、だんだんショートカットの方法を覚えていくんじゃないかなあ。ネームを描く早さって、何年まんが家を続けてもあまり変わらないみたいです。まんが家によって違うみたいで、すごく早い人もいれば、遅い人もいる。でも時間はかかっても、おもしろければいいわけだから。がんばろうね!
はい、がんばります!
詰まっているところを飛ばして描くのもアリ
――以前、詰まった時の対処法として、「そこは飛ばして、その後から描く」のもありだとおっしゃっていましたね。
それもありますね。詰まったところはいったん、ふわっとさせたまま2~4ページ分くらい空けておいて、かたまっているところがあったら先に描いちゃう。最後まで描けたら描いてしまって、後から、空けておいたところをどう埋めたらおもしろいかな、と考えて、埋めていったりもします。
「ふわっと」させるのは、どういうところが多いですか?
例えばここで「ちょっと仲良くなること」があってほしいんだけど、具体的なエピソードを思いつかない、とかですね。なのでそこはふわっと保留にして、ほかのところを描きながら何日か考えてみて、思いついた段階で埋めよう、みたいな。ふわっとはさせているんだけど、入るべきものはなんとなく決まっている状態というか。まったく何も浮かばずに飛ばしているわけではないことが多いと思います。空けてある部分に、「一応ここが引き。何か仲良くなるエピソード入る」みたいなことを文字で書いたりもします。
<編集長>
全体の構成は見えているから飛ばせるんですよね。
そうですね。前にも(第6回)持田あき先生が起承転結を「Aメロ→Bメロ→サビ」のように音楽に例えていらした話をしましたが、それでいうと「サビは決まっているんだけど、Bメロが浮かばない」みたいな時は、Bメロはいったん飛ばす、という感じですかね。
実は、飛ばして描く方法でやってみたことがあるんですけど……私はうまくいかなくて。順番に埋めていくほうが向いているのかな?と思いました。
うんうん! 超ヒットしていたり、超おもしろいものを描かれているまんが家さんで、順番にしか描けない方を何人か知っています。本当に人それぞれだと思う。何度もそう言っちゃうんだけど(笑)。なので、そのやり方で迷わず行きましょう! でも違うやり方を試してみるのはいいことだと思うので、チャレンジもしてみましょう。日をあらためて。
はい! やってみます!
これは残して、これは捨てる
それと……先ほど河原先生がおっしゃったようになんとか最後まで描いても直すのに時間がかかります。
私もです。ページ数がオーバーしてしまって削るのが大変だったり……。
捨てる部分と残す部分を選ぶのに時間がかかっているんじゃないかな?
そうかもしれません。河原先生が残すのは、どういう部分ですか?
なんかね、私の場合の、残す順番みたいなものがあって……まずエピソードの中で、相手が絡むことは残す。
――逆に、主人公一人で完結できるようなエピソードは捨てることもできる、ということですね。
そうですね。あと、状況を変えるような動きのあるエピソードは残す。セリフは強いものを残す。それと、同じようなエピソードがあるなと思ったらまとめて1つにします。ただ、あえて同じようなエピソードを重ねて、たたみかけるというか強調するような方法もあるので、ケースバイケースなんですけど。基本的には1つにまとめたほうがすっきりして読みやすくはなるかなと思います。……ということをメモしてきました(笑)。とりあえず、そうやって自分でこれだなと思うものを残したら、それを中心にもう一度全体を組み直してもいいかもしれないですね。
そうやって優先順位をつけて、あらためてネームを組んでいくんですね。
スマホを触らない、ネットは見ない、テレビはつけない……あきらめない!
この、ネームを「直す」作業って、お部屋を整頓するのに似ているような気がしていて。
――既にあるものを整えていく作業だから、ということでしょうか。
そうですね。盆栽の枝を剪定していくような作業というか。そういう作業が好きな人はいいんですけど、苦手な人にとっては、ずっとその作業を続けるのはつらいですよね。
つらいです……!
作業を続けるコツはあるんでしょうか。
コツはね……途中でスマホを触らない、ネットは見ない、テレビはつけない!(笑)そういう物理的なことも大事かもしれないですね。
何かに気をそらせない……。
片付けをしていて、思い出の何かが出てきたら手を止めてそっちを見ちゃう、みたいなことをしない……。
そうそう(笑)。「終わるまではほかのことしない」と決めると、意外とできるかもしれないです。これはネームを直す作業に限らないことだけど、つらくなってくると、ちょっと逃げたくなるじゃない? そういう時にもう一歩考えよう、と踏みとどまってみる。結局、あきらめないことが大事なのかなと。
あきらめない……!
……という、自分に対する戒めなんですけど。私もちょっとつまると、すぐネットでまんがの描き方の本を探したりしちゃうので(笑)。
いったん目の前のネームから離れたら、何かが変わるかもしれないって思ってしまっていました。
そうなんだよね。でも、スマホとテレビって、見る前と状況がほとんど変わらないんだなと思うようになって。だから、どうしても気分転換したいときには、散歩したり、電車に乗ったり、人と話したりするほうがいいと思います。あと、頭を洗うとか。そうしているうちに何か浮かんだりすることもあるから。直す作業は特に、ただ時間をかけ過ぎてもできないので「30分間は剪定作業をする」と決めて、やれるところまでやったら、いったん手を止めて、ネットとスマホとテレビ以外の方法で、気持ちを切り替えてみてもいいかもしれないね。
2時間机の前に座っていたのに1ミリも進んでいなかったりすると、罪悪感で「もうちょっと座っていないと……」みたいな気持ちがわいてきてしまって。
うんうん。でも、ずっと自分のネームを見ていると、いいのかどうか、わかんなくなってきちゃうよね。そういう時は離れてみてもいいと思うよ。
<編集長>
ストップウォッチで計りながら描いて、時間がきたらいったんやめるという作家さんもいますよね。
それもいいですね。ただ、直す作業の時はそうやって計るのは効果的だと思いますが、浮かんだものをネームとして最初に外に出す時には、時間を区切ったりしないほうがいいと思います。思いついたものを、まずはわーっと描いたら良いと思いますよ。
あの……私、ネームを完成させるのにとにかく時間がかかるんです。迷走時間が長すぎて……。