まんが投稿

河原和音先生に聞く!実践ネーム塾
 第5回 ストーリー その①

16ページには裏設定も壮大なストーリーも入らない

――今回からストーリーについて伺いたいと思います。別マの投稿者が初めに取り組むことが多いのは、16ページの読み切りだと思うのですが、特にどんなことを意識すべきでしょう。

16ページって、すごく短いですよね。サイズ感としてはCM1本分くらいのドラマしか作れないと思っていい。壮大なストーリーを考えていても、入らないということが描いていくうちにわかってくると思います。裏設定も小ネタもまるで入らないんです。

入らないんですね……キャラを作り込むと、「これはあの子らしい」みたいな小ネタが増えてしまいます。

私も、盛り込みすぎちゃう傾向があるんですよ。例えば料理教室が舞台のまんがを描くとしたら「そんなに一生懸命料理作らなくていいんじゃない?」っていうくらい、料理をさせてしまったり、「料理とは……?」みたいなところまで追求してしまったり。小ネタは入って1つか2つ。まんがに落とし込めなかったら、いまはその時じゃないと思って、最後はあきらめる。今後、めっちゃテクニックを身に着けたら描けるかもしれないので、保留にしておくといいと思います。

そうします!

主人公の自己紹介スペースもないぐらいなので、いきなりエピソードから入らないと間に合わない。恋愛ものなら、出会って、好き!と思って、すぐくっつく、くらいのスピード感だと思います。でもリアルな恋愛として考えると、それでは早すぎると感じますよね。私も、リアルなスピード感で描いたら「告白するところくらいで終わりだな……」と思ったこともあります。でもそこで終わるわけにもいかないので(笑)、早すぎると思われないように、説得力を持たせるような描き方をしないといけないんですよね。例えば、2人がもともと知り合いだった設定にするとか、最初から女の子が男の子を好きという状態からスタートするとか。そうすれば16ページに収まるし、説得力もある程度持たせることができるかもしれない。連載の場合だと、誰かと出会ってくっつくまでを全話を通して描けばいいので、1話目は距離の遠いところから始めることができるんですけどね……助走がとれるというか。読み切りはそこも難しいところだと思います。

「起承転結」の「起」では男の子と女の子の関係を早めに見せる

――いま「いきなりエピソードから」というお話がありましたが、どう始めるか……起承転結でいう起=「つかみ」というのは大事でしょうか。

すごく大事みたいです。最初の5ページくらいまでになんとかしないといけないのかなと。

5ページくらいで、読者に興味をもってもらわないといけないんですね……。

――「いきなりエピソードから」というのは、ページ数の節約と興味をひく、両方の面で大事になってくるんですね。

そうですね。モノローグから入る場合もあってもいいんですけど、基本的にはエピソードなのかなと。以前、新人賞の応募作を読んでいた時に、主人公サイドの説明がまずあって、その後で男の子が出てくるものが多かったんですね。それだと男の子が出てくるのが遅いな、と思って……私も新人のころ、ぜんぜんできていなかったので、反省点がいっぱいあるんです。やっぱり、男の子を早めに出して、すぐに2人のエピソードを描かないといけないんですよね。その時には、「おはよう!」みたいな2人の日常会話もなくてもいいくらいで。主人公がどういう子なのかを、ほかの人とのからみで見せるより、男の子と女の子の関係を描くことで見せたほうが、ほかのことを描く余裕があるのかなと思います。

――女友だちや家族など恋愛と直接結びつかない人よりも、中心人物である男の子との関わりで、主人公のことを見せたほうがいいということでしょうか。

そうですね。あと、物語の始まりを、過去の出来事にして、その後現在に戻るような描き方もあるんですけど、なんとなく「現在」から始めたほうが読者さんは喜んでいるような感触があります。

<編集長>

主人公と同じタイミングで読者にも情報が入ってくるほうがいい、と聞いたことがあります。

はい。読んでいる人が集中してくれないと困るので……。

私が出だしを描く時に困っているのが、不自然になることなんです。「つかみにいくぞ!」とか「始まるよー!」みたいなことがスケスケなものになってしまって……もっと自然に入りたいのですが、難しくて。河原先生の描かれるものは、いつも自然に始まりますよね。例えば読みきりの『愛のために』だったら、「夏 5回は海行った! 10回以上は合コンした!! 彼氏はぜんっぜんできないけど!!!」とか……すごく自然だし、出だしの1ページだけで主人公がどういう子なのかもわかります。

『愛のために』はすごくよく覚えていて。最初の5ページを、10回くらい描いたの。あれはエピソードから始まる形ではないし、モノローグがすごく続くので、自分でも不安になったんです。エピソードで始める形に描き直してみたりもしたんだけど、結局、最初に描いたモノローグから始める形が一番読みやすい、ということになりました。同じ話でも、出だしの描き方は何パターンかあるんですよね。柔軟に、いろんなパターンを試してみるといいんじゃないかな。出だしを変えることで、ぜんぜん変わると思う。4つくらい試せば「お?」ってなると思いますよ。

4つくらいなら、試せそうです!

ぜひやってみてほしいです。今って、ネットで試し読みもできるので、ポイっとされるのも早いんですよ。だから、ひねりにひねってわけのわからない方向に行って、結局最初に戻ったりすることもあるんだけど、それでも試したほうがいいと思います。

「承」はつなぎではない。いい場面をどんどん描こう

――以前、「中だるみはいや。起・転・結だけじゃなく、「承」=「あいだ」も大事。」とおっしゃっていました。

そうですね。「承」は、そこで読者さんに飽きられるか、思い入れてくれるかの大事なところだと思います。主人公の名前も忘れかけられてしまうのか、それとも「ほうほう、そうなんだ、そうなんだ」って入ってきてくれるか……入り込んでくれれば、その後の転・結もスムーズに読んでもらえます。

――転の前なので「凪」なのかなと思いますが、そうではないんですね。

ぐいぐい寄せているような感じだと思います。ただ、自分でも「うわ、これどうでもいいわ」って思うようなことを描いてしまうこともあるんですよ。そういう時には、「どうでもよくないことに変更だ!」みたいな感じで、時間が許す限り、なるべくおもしろいものに差し替えようとはしています。

出だしと同じく、やはり粘ってみることは大事なんですね。

あとこれは特に連載の場合になってしまうんですけど……承は承で何か起こったほうがいいよね、と。承では2人だけのやりとりじゃなくて、みんなでワイワイさせたり、シチュエーションを変えたりすることはあります。逆に起が大勢でいるようなシチュエーションだったら、承では2人にしてみたり。あと、全然関係ない場所で2人を会わせてみたりもします。学校じゃない場所だと、こうなるんだとか。そうすると、「あ、なんかちょっといいな」とか思ってもらえるかなと。

学校じゃない場所で会って、「私服だ!」とときめく、みたいなシーンにすることもできますね。

そうそう! 起からつなげることを意識するより、そこはそこでいいシーンを描く。起から高まってこうなった、ということなので。あんまり、時系列とかつじつまで考えなくていいと思うんですよ。ここに来るまでにどういう道を辿ってきたか、と順番に描いていくよりは出来事を配置していく――場面と場面をぽんぽんと置いていくような感じがいい。そのあとで、「ここでこういう気持ちになった」というのを乗せていけばいいんだと思います。

――いい場面がどんどん出てきたほうが、がぜん次が気になって読みたくなります。

時系列で考えると、「学校に行って帰ってきた」みたいな話になってしまいがちなんですよ。描く時は「これは何時間目の出来事で、ここから翌日で……」とかつい考えちゃうんですけど、実は日にちが飛んだりしても、読んでいるほうとしてはあまり気にならない。そういうことより、場面を描くことのほうが大事なんだなと思うようになりました。