河原和音先生に聞く!実践ネーム塾
第2回 キャラクター その①
河原先生は、読者に好かれるような女の子を描きたい、と思ったりはしますか?
やっぱり嫌われないほうがいいですよね。あわよくば、めっちゃ好かれるといいなと思っています(笑)。描き手として、読者の人にウケたい気持ちはあったほうがいいと思うんですよ。「お仕事」としてまんがを描くので、読者の人にめっちゃ嫌われる人とか、なんとも思われない人を描こう、みたいな気持ちではもちろんやらないほうがいいですよね。
――河原作品の主人公たちはみんないい子で、読んでいてすぐに大好きになります。「いい子」過ぎると「なんなのこの子!?」とイラっとすると思うのですが、まったくそういう気持ちにはなりません。なぜなのでしょう。
でもそんなに「いい子」は描いていないと思いますよ。そこそこ性格が悪いところもありますから(笑)。
主人公の周りにいる女の子たちが、読者が主人公に対して持つ疑問に全部つっこんでくれますよね。
それもテクニックの1つですよね。読者の方からつっこまれるかなと予想できるところは、まんがの中で解決してしまうというか。自分でも主人公のことを全部「良し」として描いているわけじゃないので、アンチテーゼ的なことを入れておくと、バランスが取れる。みんなが「主人公最高!」みたいな感じだと、不思議なまんがになっちゃいますよね。バランスが大事だと思います。
<編集長>
大事な技術ですよね。途中のつっこみがないと、読者も「主人公のここに、なんで最後まで誰も気づかないの!?」って思ってしまうけれど、誰かにひとこと言わせておけばそれで済む。
描いていて、自分で「不自然だな」と思うものは、読んでいる人も不自然だと思うはずなので……なるべく、自分ではそう思わないような主人公にしたほうがいいよね。あと、「友だちは今どういう気持ちでいるのかな?」とか、脇役のキャラにも目配りできるようになるといいですよね。そうすると、「じゃあ次の作品で、この子が主人公になるには……?」という方向で考えてみることもできるかもしれないので。
なるほど!
「自分」をキャラクターにどう入れる?
ちなみに、河原先生の描く主人公には先生ご自身の性格が入っているのでしょうか。それとも「これはおもしろいんじゃない?」と思った性格を入れているのでしょうか。例えば『高校デビュー』の晴菜は全力でまじめだなあと思うんですが……。
自分がまじめなので、それが出ちゃった、というのはあると思います。やっぱりどのキャラクターにもちょっと自分みたいなところはありますよね。私、ちょっとずれているところがあるんですよね。頭の中がおめでたいというか(笑)。ひとりで頭の中でボケとツッコミをやっていたりして……。晴菜には、そのボケの部分を入れたところはあります。私も実際に高校時代、彼氏を作ろうと思ってがんばったりしていたんですけど、ずっとあさっての方向に努力していたんですよ(笑)。そのあさっての方向感がおもしろすぎて、それを描きました。ただ「私が」というか、人間てみんなそういうところもあるというか……自分が持っているものは、ほぼみんなが持っている部分でもあるのだろうと思っています。ことわざとかもよく「わかる~!!」と思ったりしますし。面白いことわざ、いっぱいありますよね。
――なるほど……個人的なことのようでいて、結果的に普遍的なものとして多くの人に共感してもらえるんですね。
自分の性格をキャラクターに入れる時に、特に意識していることはありますか?
自分が持っているものの中で、何をフィーチャーするか……どの部分を伸ばすか、というようなことは意識します。今すごく思いやりがあるな!って思えるような自分もいれば、ものすごく薄汚い気持ちの自分もいる。そういうものを全部同じ強さで1人のキャラクターに入れると、普通に見えてしまうのかなと。どこかをちょっと強めたり、純度を高めたりして、入れてみる。そこから育てて、最終的には人間を一人作り上げる気持ちで描くといいんじゃないかと思います。
すごくわかりやすいです……!
あとね、その時に大事なのが「感情」かなって。
「感情」ですか。
そう。「好き」「キライ」「わかる~!!」「ちょっとわかんないけどそういう人るかも~」とか「かわいー」「かわいくなーい」「応援したい」「ついていけない」「かっこい~」「かっこわる~い」……みたいに、読者である自分が、そのキャラクターについてどう思ったかを確認するといいかもですね。
――たくさんの感情がありますね。必ずしも「好き」とか「わかる~!!」じゃなくてもいい、ということですね。
そうです。「かっこわる~い、でもおもしろい!」「やなやつ~、でも好き!」とかもありますよね。とにかく、何かしらの「感情」が自分の中に生まれるのが大切かなと思います。
――何も感情がわかないようだと、一人の人間として育てにくい、ということでしょうか。
そういうことだと思います。
整理しすぎず、そのままストンと描いてみよう
<編集長>
よく「まずは自分をベースに描いたらいいよ」と作家さんに言うんですけど、だいたいみなさん「私の経験とか人格とか、ありきたりで全然おもしろくないです」っていうんです。でも聞いてるほうはおもしろいんだよね。みんなでごはんを食べている時に恋愛話が出たりすると、それが描いているまんがよりおもしろかったりすることがあって。「それをまんがにしたほうがいいよ!」と。
自分を俯瞰して、それに気づくのはなかなか難しくはありますよね。
<編集長>
周りの人に聞いてみるといいかもしれないですね。
なるほど……確かに自分が深くない人間なので、自分がベースだとおもしろいキャラクターにはならないと思ってしまっているところがあって。特に自分を「かわいい」キャラクターとして描くのが難しくて……。背が大きいことにコンプレックスがあるんです。大きいと「実はかわいいところあるよね」と「実は」がつく「かわいい」になってしまう。小柄な人だったら何をしても、例えば全力を出しても、けなげでかわいいと思うんです。でも私が全力を出したら暑苦しくなるだけで……「そもそもそれだけエネルギーのタンクが大きいんだから、最初からがんばれ」と思われてしまう……!
<一同> 今の話、すごくおもしろい!
それをそのままモノローグにして、始めればいいと思う!
えーっ! どういうことですか?
たぶん石田さんは今みたいな話をまんがにしようとすると、「まんがっぽく」しちゃうんじゃないかな? 今のままストン、と描けるといいですよね。まんがとして整理しちゃうと、今のおもしろさとか勢いが出ないと思うんです。私も、あの時あんなにおもしろかったのに「あれ?」と思うことがよくあるのでわかるんですけど。
はい。よくそう感じてしまいます。
今の、このテンポで!
では……恥をしのんで描いてみます!
たぶんそうやってコンプレックスを描いて認められてくると、だんだん快感に変わってくると思いますよ(笑)。そっか、私のこういうところをおもしろがってもらえるんだ!って。ほかにもまじめだったり、ちっちゃい子ってかわいくてうらやましいなっていう気持ちも持っているわけだから、キャラとして厚みもあるしね。
ありますかね……厚み。自分ではペラッペラの人間だと……A4ファックス1枚みたいな人間だと思っていました。
<一同> 爆笑
A4ファックス1枚の私……いい、いい!
そう、こういう雑談からまたキャラがふくらんでいくかもしれないんですよ。
ただ、自分をベースにしているだけではキャラも一辺倒になってしまう気がするのですが。
確かに、毎回自分をベースにするわけにはいかないよね。私は、友だちとしゃべっている時に、自分とまったく違う考え方があるんだ!とびっくりすることがあって。「普通こうじゃないの?」の「普通」というのは、本当に人それぞれ違うんだなとわかったんです。その時に、描くキャラクターの幅が広がった気がしますね。「この子のこういうところがおもしろいな」「ここがいいな」と思えたら、自分と似ていても似ていなくても、キャラクターに取り入れるといいんじゃないかと思います。
――今回からキャラクターについてお話を伺います!